ブラジリアン柔術だけではなく、どの競技でも審判のジャッジは尊重されるべきものですが、選手・観客等の差異などにより“抗議”に発展する場合があります。柔術の試合会場でも時々抗議する場面を見掛けますが、最近は一体どういう抗議が多いのでしょうか? 今回はJBJJF審判部長の桑原幸一さん、審判副部長の植松直哉さんにお話を伺いました。
IBJJF審判部長を務めるアルバロ・マンスール氏を挟むように、左に桑原さん、右に植松さん。
--まず審判部に対する抗議は年々増えていたりしますか?
植松直哉さん(以下、植松) 前より直接僕らの耳には届かなくなってきた印象はあります。風の噂で、「植松の態度がデカい」とかは聞きますが(笑)。
桑原幸一さん(以下、桑原) 確かに減りましたね。僕個人を“攻撃するメール”は時々貰いますね、あとは「2ちゃんねる」に悪口書かれたりは(笑)。
植松 そもそも抗議の大半は、選手・観客・代表でさえ“
ルールを誤解している”ものです。
IBJJFのルールブックを最初から最後まで読んだことのある柔術家・コーチはほとんどいないと思う。試合映像やレフェリー経験のない他柔術家からの“又聞き”で、自分なりのルールを構築していく方が多い。そこの差異が、抗議に繋がる。
--独自の判断でポイントと考えてしまう選手、コーチが多いという事ですね。
植松 例えばスイープは、ガードという概念があり、そこから上下入れ替えて3秒キープしてはじめてポイントになる。とにかく下から返したら2点ですよね!という方もいます。
桑原 あと下の選手がスイープをして、相手選手が腹這いになる。でも、背中ついてないからポイント入らないでしょ? そんな
独自の解釈で済ませてしまう選手、コーチが多いですね。あとは、よく背負いで
投げただけで2ポイント入ると思っている方が多い。明確には投げて上になったら3秒キープせねば、ポイントは入りません。これは選手だけではなく、審判でさえ間違えている事が多い。僕や植松くんは「3秒キープの鉄則」は口酸っぱく注意しています。
--審判でさえ、判断の難しい部分がある、と。
植松 レフェリーの見る角度もありますし、どこまでが“流れ”かは審判の主観により判断は別れます。
ギリギリのポイントの有無はミスジャッジではなく、レフェリーの判断なんです。野球のストライクゾーンと同じで、外角高めをある審判はストライク、別の審判はボールと判断するのと一緒です。どっちが正しいかは言い切れない。その部分でのクレームが来るのは、僕らも仕方ないと思っているし、ある意味で一生分かり合えないとも思っていますね。
桑原 先程言った“3秒”もそうで、我々審判も時計をみて3秒を判断しているワケではありません。
ルーチの時は時計で20秒計りますが、めまぐるしく変わる攻防の中で、時計に目をやった一瞬で重大事故になることもあります
植松 先日のアジアオープン2013でも、「さっきの試合は何故3秒なのにポイント入らず?」と言われ、僕は2秒内だと思ったと答えました。2,9秒と3秒の差は難しいし、後でビデオを持って来られても仕方ないことなんです。
桑原 僕らは審判の皆さんには、「基本ゆっくり数えてください」とは伝えています。
植松 あと、日系ブラジリアンの選手などは、試合を優位に勧めるために時々“アピール”として抗議してくることはありますね。その行為に悪意があるかないかは別。まぁ、汚い言葉は悪意ですが。
--では、明らかな誤審には、どう対応されますか。
桑原 これもルールブックにも書かれていますが、当該レフェリーに問いただし、当該レフェリーが「僕はそう判断しました」と言えば、それで終わりです。ただ、例えばヒールホールドで一本取っていれば、それは規定に応じて判断します。柔道のジュリーのように、外部で見ていた人間の判断で試合が覆ることはなかなかありませんね。
明日に続きます。